経営企画のAI活用 分析から資料作成まで
この記事の要点
市場分析・競合比較・経営計画書・取締役会資料・KPIレポートの作成フローにAIを組み込む方法。数値の精度確認と、AIが苦手な判断・意思決定との役割分担を具体的に解説する。
経営企画でAIが最も効果を出せる領域
経営企画部門の業務は大きく「情報収集・整理」「分析」「文書化」「意思決定への貢献」の4段階に分かれる。このうちAIが補助できるのは「情報収集・整理」と「文書化」の部分だ。
「分析」は人間とAIが協働できるが、「意思決定への貢献」は最終的に人間の経験・判断・責任が伴う。この役割の区別を持ったうえでAIを使わないと、分析の深みが失われたり、意思決定の根拠が薄くなるリスクがある。
市場分析の情報収集と整理
AIを使える市場調査の場面
- 業界トレンドの概要をまとめた文章を出させる
- 複数の調査レポートの要点を整理させる
- 市場規模・成長率・主要プレイヤーの比較表を作らせる
- SWOTやPESTELの枠組みで情報を整理させる
注意:AIの市場データは時点制限がある
AIが提示する市場規模・成長率・企業シェアは、学習データの時点に依存する。2025年以降に変わった数値はAIが知らない可能性が高い。プロンプトの出力に「出典を付記してください」と指示しても、AIが出す出典の中には存在しないものが含まれることがある。これをハルシネーションという。
市場数値は必ず次の一次情報源で確認する。
- 業界団体・経済産業省の統計
- 上場企業の有価証券報告書・決算資料
- 信頼できる調査会社のレポート(ガートナー・矢野経済研究所等)
AIは「情報の構造化・整理・記述」を担い、数値の正確性は人間が担保する。
市場概要の整理プロンプト例
以下の情報をもとに、国内SaaS市場の概要を整理してください。
【入力情報】
[調査レポートや公開データのテキストを貼り付ける]
【出力形式】
1. 市場規模と成長率(データが含まれる場合のみ記載、不明な場合は「要確認」と明記)
2. 主要プレイヤーと特徴の比較表(3〜5社)
3. 市場を動かしている主要トレンド(3点)
4. 主要な課題・障壁(3点)
数値の根拠となる出典が入力情報にある場合は付記。ない場合は記載しない。
「数値がない場合は記載しない」と明示することで、AIが数値を作り上げるリスクを減らせる。
競合分析の効率化
競合比較表をAIで素早く作る
製品・サービスの競合分析は、比較する項目が多く表を作る作業に時間がかかる。公開情報(競合他社のサイト・プレスリリース・決算資料)を集めてAIに渡すと、比較表の形に整理させることができる。
以下の各社の情報をもとに、競合比較表を作成してください。
【A社情報】
[A社の製品情報・価格・特徴・強み・弱みを貼り付ける]
【B社情報】
[B社の情報を貼り付ける]
【C社情報】
[C社の情報を貼り付ける]
【比較軸】
- 主要ターゲット層
- 価格帯
- 主要機能(〇×△で評価)
- 強みと弱み(各3点)
- 自社との差別化要素
不明な情報は「公開情報なし」と明記。推測で埋めない。
「推測で埋めない」という指示を入れておくと、AIが情報の空白を推測で補うことを防げる。
ポジショニングマップの軸設定補助
競合分析の結果をポジショニングマップで可視化する際、縦軸・横軸の設定に迷うことがある。AIに軸の候補を複数出させると、検討が進みやすい。
次の業界で競合ポジショニングマップを作る場合、縦軸と横軸の組み合わせとして適切な候補を5パターン提案してください。
業界:[業界名と主要な競合の特徴の概要]
目的:自社製品の独自ポジションを明確にする
各パターンに「この軸を選ぶ理由」を1〜2文で付記。
経営計画書の文書化補助
数値は人間が管理し、文章はAIが補助する
経営計画書・中期経営計画・年度事業計画の文書は、「数値の根拠」と「文章による説明」の2層で成り立っている。AIが補助できるのは「文章による説明」の部分だ。
数値(売上目標・投資計画・財務予測)の正確性・整合性は、担当者がスプレッドシートで管理し、AIには渡す情報として文章化を依頼する。
経営計画のセクション別文章化プロンプト
以下の数値をもとに、中期経営計画の「成長戦略」セクションの文章を作成してください。
【数値・方針(人間が用意)】
- 計画期間:2026〜2028年(3カ年)
- 売上目標:2025年度比1.5倍(2028年度末)
- 主要施策:
1. 既存顧客の単価引き上げ(クロスセル・アップセル強化)
2. 新規顧客獲得コストを現状の80%に圧縮(マーケティング自動化)
3. 海外展開(東南アジア2カ国への進出)
- リスク:為替変動・競合の価格攻勢・人材確保
【出力条件】
- 600〜800字の説明文
- 根拠のない楽観的表現は使わない
- リスクについても1段落で言及する
- 文体:ですます調
文書全体の構成を先に決める
大型の計画書を作る場合は、構成をAIに提案させてから、各セクションを個別に書かせる方が品質が安定する。
3カ年の中期経営計画書の目次・構成案を提案してください。
【会社概要】
業種:[業種]、従業員数:[人数]、売上規模:[金額]
【含めたい内容】
- 現状分析(市場・競合・内部)
- 基本方針と重点領域
- 財務目標
- 各事業の施策
- 人材・組織戦略
- リスクと対応方針
想定読者:取締役会・株主総会
分量目安:20〜30ページ
構成が出たら、各セクションを個別のプロンプトで依頼する。一度に全部書かせようとすると、質が低下し一貫性が崩れる。
取締役会資料の効率的な作成
取締役会資料で重要な「判断しやすい情報の提示」
取締役会資料に求められるのは、意思決定に必要な情報を正確・簡潔に伝えることだ。AIはこの「情報を構造化して伝える文章」の生成に使える。
議題ごとのサマリー作成
次の業務執行報告を、取締役会向けの1ページサマリーに整理してください。
【報告内容】
[詳細な業務執行報告のテキストを貼り付ける]
【サマリーの構成】
1. 結論・推奨(2〜3文)
2. 現状の数値(表形式)
3. 課題と対応策(箇条書き)
4. 経営陣に求める意思決定事項
分量:A4 1ページ相当(400〜600字)。
承認議案の文書化
取締役会に諮る承認議案(設備投資・M&A・新規事業・予算変更等)の文書化にも使える。
以下の条件で、取締役会向けの承認議案文書の初稿を作成してください。
【議案内容】
- 議案名:新オフィス移転の承認
- 背景:現オフィスの賃貸契約満了(2026年12月)と人員増加への対応
- 移転先:[ビル名・所在地]
- 賃料:現状比[金額]万円/月増
- 初期費用:[金額]万円(内装工事・引越費用)
- 効果:収容人員[現状→新規]名、交通アクセス改善
- 審議事項:移転先と初期費用の承認
構成:議案名・背景・内容(費用含む表)・効果・リスク・推奨(審議を求める旨)
KPIレポートの定型化
毎月のレポート作成を効率化する
月次・四半期KPIレポートは、構成が固定されているため定型化しやすい。ひな形をAIに作らせてから、数値を差し替えて使う方法が実用的だ。
次の条件で、月次KPIレポートのひな形を作成してください。
【レポートに含める指標】
- 売上(目標・実績・達成率・前月比・前年同月比)
- 新規顧客数・既存顧客継続率
- 営業活動量(商談数・成約数・成約率)
- マーケティング指標(リード数・CVR)
【構成】
1. エグゼクティブサマリー(5行以内)
2. 指標別の実績表と前月比
3. 目標未達項目の要因分析(人間が書く欄として空欄にする)
4. 翌月の重点対策(人間が書く欄として空欄にする)
数値の欄は「[数値]」のプレースホルダーで出力。
このひな形に毎月の数値を入れてAIに解説文を生成させ、担当者が要因分析と対策を追記する流れにすると、レポート作成時間を大幅に短縮できる。
KPI解説文の生成
数値が揃ったら、AIに解説文を書かせることもできる。
以下のKPI数値をもとに、月次レポートの解説文を作成してください。
【2026年5月実績】
- 売上:[金額]万円(目標達成率[数値]%、前月比[数値]%)
- 新規顧客数:[数値]社(目標[数値]社)
- 継続率:[数値]%(前月[数値]%)
- 商談成約率:[数値]%(前月[数値]%)
【解説の条件】
- 達成項目と未達項目を分けて説明する
- 数値の変動に「〜のため」という原因推測を加える(あくまで仮説として明記)
- 400〜500字
「仮説として明記」という指示を入れておくと、AIが根拠のない断定をする可能性を下げられる。
経営企画とAIの役割分担
経営企画における最大の価値は「何を優先するか」「どちらのリスクを取るか」の判断にある。AIはその判断を補助する情報と文書を出すことができるが、判断そのものは経営陣・担当者が行う。
| 業務 | AIの役割 | 人間の役割 |
|---|---|---|
| 市場分析 | 情報の構造化・比較表作成 | データの正確性確認・解釈・示唆 |
| 競合分析 | 比較表・軸の候補生成 | 評価・戦略的判断 |
| 計画書作成 | 文章の初稿・構成案 | 数値管理・方針決定・整合性確認 |
| 取締役会資料 | サマリー・議案文の初稿 | 最終確認・発言責任 |
| KPIレポート | 定型文・解説文の生成 | 数値の正確性・要因分析・対策立案 |
AIを使った分析の精度を高めたい場合は、生成AIの精度を左右する5つの要因で整理されている観点が参考になる。プロンプトの質が分析の質に直結する。
未公開の財務情報・事業計画をAIに入力する際は、生成AIとセキュリティでデータ管理の原則を確認してほしい。エンタープライズプランの利用や社内導入済みツールへの限定が必要な場合がある。
まとめ
経営企画のAI活用における要点を整理する。
- 市場分析・競合比較の「情報整理」と、計画書・レポートの「文章化」にAIを活用できる
- 数値の正確性・根拠は必ず人間が管理し、AIに確認させない
- AIは意思決定の材料を整理するが、判断・方針決定は経営陣・担当者が行う
- 取締役会資料・KPIレポートの定型化にAIを使うと、反復作業の時間を削減できる
- 未公開情報の入力はデータ管理ポリシーの確認を経てから行う
経営企画でAIを使う価値は、情報整理と文書作成の速度を上げて、本質的な分析と判断に時間を集中できることにある。
よくある質問
経営企画の市場調査にAIを使えますか
一次情報の収集補助・整理・比較表の作成には使えます。ただしAIの学習データには時点制限があり、最新の市場データは反映されていない場合があります。数値は必ず一次情報源で確認します。
AIが作った経営計画書の数値は信頼できますか
信頼できません。AIは指示した数値をもとに文書を作りますが、数値の正確性・整合性の確認は人間が行います。AIは文書の構成と表現を担い、数値の根拠は担当者が管理します。
取締役会資料の作成にAIを使う場合の注意点は何ですか
未公開の経営情報・財務数値をAIに入力する際は、利用するサービスのデータ管理ポリシーを確認します。エンタープライズプランや社内導入済みのツールを使うことが原則です。
KPIレポートの定型化にAIを活用できますか
毎月同じ形式で出すKPIレポートのひな形作成・文章パートの初稿生成・前月比の解説文作成に使えます。数値の入力と正確性確認は人間が行います。