職種別AI活用

中期経営計画の策定にAIをどう使うか——情報収集から資料化まで実践手順

中期経営計画の策定にAIをどう使うか——情報収集から資料化まで実践手順

この記事の要点

経営企画担当がAIを使って中期経営計画の策定を効率化する方法を解説。環境分析・シナリオ作成・事業計画の構成化まで、具体的な手順と活用場面を示す。

結論

中期経営計画の策定でAIを使うと、外部環境分析の初期整理が2〜3日から半日に、計画書の骨子作成が1週間から2日程度に短縮できる。AIが担うのは情報収集・整理・構造化であり、戦略の方向性・数値前提・経営判断は人間が行う。この役割分担を徹底することで、AIは中計策定の最も時間を食う下準備を大幅に効率化する道具になる。


中期計画策定のフェーズとAIの活用マップ

中期経営計画の策定は、大きく5つのフェーズに分かれる。

フェーズ主な作業AIの活用度
環境分析PESTEL・競合・市場動向の収集整理
自社分析SWOT・ケイパビリティ整理中(素材は人間が用意)
戦略方向性シナリオ・戦略オプション設定中(論点出しのみ)
計画書作成構成・文章化・スライド化
数値計画P/L・投資計画・KPI設定低(前提整理のみ)

AIの活用度が「高」なのは、情報収集・整理・文章化の工程だ。経営判断を要する戦略立案・数値計画の根拠設定は人間が行う必要があり、AIに任せると根拠の薄い計画書が生まれる。


フェーズ1: 外部環境分析(PESTEL)

AIでPESTEL分析の骨格を作る

PESTEL分析(政治・経済・社会・技術・環境・法律の6軸)は、情報量が多く整理に時間がかかる。AIを使うと、自社業界の外部環境を各軸ごとに整理した初稿を30分以内に出せる。

以下のプロンプトが実用的だ。

【依頼】
日本の製造業(自動車部品メーカー)向けに、2026〜2028年の中期経営計画策定を
想定したPESTEL分析の骨格を作成してください。

【要件】
・各軸3〜5項目
・各項目に「事業への影響」を1文で付記
・機会(ポジティブ影響)と脅威(ネガティブ影響)を区別して記載
・数値は「参考値」として扱い、最新情報は一次情報で確認することを前提とする

【出力形式】
マークダウンの表形式

このプロンプトで出た結果は「たたき台」として使う。AIが出す内容には業界固有の文脈が抜けることがあるため、社内の事業部担当者や業界専門家のレビューを経て精度を上げる。

業界動向の整理

特定業界の直近動向を整理するプロンプトも有効だ。

【依頼】
以下の業界について、直近2〜3年の主要な動向を整理してください。

【業界】
日本国内の中小企業向けBtoB SaaS

【含めてほしい項目】
1. 市場規模の方向性(成長・横ばい・縮小の傾向と主な根拠)
2. 主要プレイヤーの動向(上位5社程度の戦略の変化)
3. 顧客ニーズの変化
4. 技術面の変化(AIやクラウドの影響など)
5. 規制・制度面の変化

【注意事項】
・数値を出す場合は出典を明記し「要確認」と付記する
・2024年以降の情報は学習データの限界があることを前置きする

このプロンプトで出た動向整理を社内のリサーチデータや業界レポートと突き合わせ、正確な情報を補完する。


フェーズ2: 自社分析(SWOT・SWOTクロス分析)

SWOTの構造化をAIに任せる

SWOTの「強み・弱み」は自社固有の情報であり、AIは生成できない。一方、人間が箇条書きで整理した素材をAIに渡して構造化させることには大きな効果がある。

【依頼】
以下に箇条書きで提供する自社の情報と外部環境情報を使い、
SWOT分析の表と、SWOTクロス分析の戦略マトリクスを作成してください。

【自社情報(強み)】
・国内シェア2位の製品ライン
・製造コストが業界平均比15%低い生産体制
・顧客継続率92%(過去3年平均)

【自社情報(弱み)】
・海外展開実績がほぼゼロ
・エンジニア採用が毎年計画を下回っている
・デジタルマーケティング投資が競合より小さい

【外部環境(機会)】
・東南アジア市場の製造業デジタル化需要拡大
・補助金制度の充実(省力化・DX関連)

【外部環境(脅威)】
・新興国メーカーのコスト競争力強化
・国内製造業の人材不足

【出力形式】
SWOTマトリクスとSO/ST/WO/WT戦略の4象限表

このプロセスで重要なのは、「AI任せにしない」ことだ。強み・弱みの素材は経営企画担当者が事業部ヒアリングや内部データから作成し、AIは「構造化・表化・戦略マトリクスへの転換」を担う。

SWOTクロス分析の論点出し

SWOTクロス分析で出てきた戦略オプションに対して、検討すべき論点をAIに出させることも有効だ。

【依頼】
以下のSWOT戦略(SO戦略: 強みを活かして機会を取りに行く)について、
中期計画に落とし込む際に検討すべき論点を5〜7個出してください。

【SO戦略】
「国内シェア2位の製品力と低コスト製造体制を活かし、
東南アジア製造業向けの展開を中期3年で行う」

【論点の出し方】
・実現可能性の確認に必要な問い
・リスクと前提条件
・具体的な施策への分解

フェーズ3: シナリオ設定の論点整理

3シナリオの設定にAIを使う

中期計画では「ベースケース・強気ケース・保守ケース」の3シナリオを設定することが多い。シナリオの設定軸と変数をAIに整理させると、論点の抜け漏れを防げる。

【依頼】
製造業の中期経営計画(2026〜2028年)向けに、3つのシナリオを設定する際の
「主要変数」と「シナリオ設定軸」を整理してください。

【想定業界】
国内製造業(産業機器)

【含めてほしい項目】
1. シナリオを左右する主要変数(5〜8個)
2. 各変数の「楽観仮定・基本仮定・悲観仮定」の一覧
3. 3シナリオの名称案と各シナリオの概要

この整理をベースに、経営チームで「どの変数を最も重視するか」「各シナリオの発生確率をどう見るか」を議論する。AIは議論の素材を作り、判断は人間が行う。


フェーズ4: 事業計画書の構成テンプレート

計画書の骨子をAIで生成する

中期計画書の構成(目次・各章の内容)をAIに作らせると、経営企画担当の「どこから書き始めるか」という最初の障壁を下げられる。

【依頼】
国内製造業(中堅企業・売上300億円規模)向けの中期経営計画書(2026〜2028年)の
構成(目次と各章の概要)を作成してください。

【役員会・株主向け資料として想定】

【含めてほしい章】
1. エグゼクティブサマリー(現状認識・計画の概要・期待する成果)
2. 外部環境・市場分析
3. 自社の現状と課題
4. 中期ビジョンと戦略の方向性
5. 事業別戦略(主力事業・新規事業・海外展開)
6. 機能戦略(人材・DX・財務)
7. 3年間の数値計画(売上・利益・投資)
8. リスクと対応方針
9. マイルストーンと進捗管理の仕組み

【各章について】
・章のタイトル案
・記載すべき主な内容(3〜5項目)
・ページ数の目安

生成された構成はそのまま使うのではなく、自社の状況・ステークホルダーの関心・会社の文化に合わせて調整する。


フェーズ5: 数値計画の前提整理

AIに数値計画の前提チェックをさせる

数値計画そのものの作成はAIには難しい。自社の固有データが必要であり、財務・会計の専門知識も要るためだ。一方、「前提が揃っているか」のチェックリスト生成にAIは役立つ。

【依頼】
中期経営計画の3年間数値計画(P/L・B/S・投資計画)を作成する際に、
前提として確認・設定すべき項目のチェックリストを作成してください。

【業種】
製造業(BtoB・国内主体)

【含めてほしい前提項目】
1. 売上計画の前提(市場成長率・シェア仮定・価格仮定)
2. コスト前提(原材料費・人件費・設備投資の想定)
3. 外部環境の前提(為替・金利・規制変化)
4. 経営資源の前提(採用計画・設備投資計画)
5. リスク要因(前提が外れた場合の影響試算)

【出力形式】
チェックリスト形式(各項目に「確認方法」を付記)

この前提チェックリストを経営企画・財務・CFOで共有し、「数値計画の根拠をどこに置くか」の合意形成に使う。


フェーズ6: 役員プレゼン資料の文章化

スライドの文章をAIで整える

中期計画の役員向けプレゼン資料は、「短く・具体的に・意思決定に直結する」文章が求められる。箇条書きで整理した内容をAIに渡し、スライドの文章として整えさせる手順が実用的だ。

【依頼】
以下の箇条書き情報をもとに、役員向けプレゼンスライドの本文テキストを
作成してください。

【スライドタイトル】
中期3年間の売上・利益目標

【箇条書きの素材】
・売上目標: 2026年350億→2028年420億
・営業利益率: 現状7%→3年後10%目標
・主な成長ドライバー: 新製品ライン2本の投入と東南アジア展開
・前提: 為替1ドル=145円、市場成長率年3%

【文章の要件】
・1スライド3〜4文
・数値を具体的に使う
・「なぜその目標か」の根拠を1文で含める
・役員向けに簡潔・断定的な表現(「〜予定」ではなく「〜する」)

役員会資料の詳細な作成方法については 役員会・取締役会資料をAIで作る方法 で解説している。


AIを使う際の注意点

機密情報の扱い

中期計画の情報は経営上の機密だ。未公開の事業戦略・数値計画・M&A検討情報は、社外の汎用AIサービスに入力してはいけない。使用できるのは社内で承認された企業向けAIプランか、自社管理のAI環境のみだ。

社内のAIデータ管理ポリシーの詳細は 企業のAIデータ管理ポリシー策定ガイド を参照してほしい。

AIが出す情報の確認義務

AIが生成する市場規模・競合情報・統計データは必ず一次情報で確認する。矢野経済研究所・IDC・業界団体・政府統計などの一次情報が経営計画の根拠となり、「AIが出した数値を使った」では説明責任を果たせない。

AIはたたき台の生成に使う

中期計画の策定でAIの価値が最も出るのは「たたき台の生成」だ。白紙から作り始めるよりも、AIが出した80点の骨格を人間が精度を上げる方が、全体の時間は短い。「AIが作った計画」ではなく「AIが下準備した人間の計画」という立場を維持することが、計画の質と説明責任の両面で重要だ。


まとめ: 中期計画策定のAI活用チェックリスト

中期計画策定でAIを使う際の手順をまとめる。

  • 外部環境(PESTEL)の初期整理: AIに骨格を生成させ、専門家レビューで精度を上げる
  • 業界動向: 公開情報をAIに整理させ、一次情報で数値を確認する
  • SWOT分析: 素材(強み・弱みの箇条書き)は人間が作り、構造化をAIに任せる
  • SWOTクロス分析: 戦略オプションの論点出しにAIを使い、選択は人間が行う
  • シナリオ設定: シナリオ変数の整理をAIに依頼し、仮定値は経営チームで合意する
  • 計画書構成: 骨子テンプレートをAIで生成し、自社の状況に合わせて調整する
  • 数値計画前提: チェックリスト生成をAIに依頼し、前提の抜け漏れを防ぐ
  • 資料文章化: 箇条書き素材をAIに渡し、スライド文章として整える
  • 機密情報: 社外の汎用AIには入れない。社内承認済みの環境のみ使用する

AIを上手く使えば、経営企画担当が中期計画の「考える時間」に集中できるようになる。情報収集・整理・文章化という時間消費の大きい作業を圧縮し、戦略の深度を上げることに人的リソースを集中させることが、AI活用の本質的な価値だ。

経営企画全般でのAI活用については 経営企画がAIで仕事を変える方法 も参照してほしい。

よくある質問

中期経営計画の策定にAIは使えますか?

環境分析の情報整理・シナリオの論点出し・計画書の構成作成には使える。ただし自社の強み・制約・経営判断はAIが代わりに行うことはできない。AIは分析の下準備を速くする道具だ。

SWOT分析をAIでできますか?

外部環境の一般的な傾向(機会・脅威)の列挙はAIが素早く出せる。強みと弱みは自社固有の情報が必要なため、人間が整理した素材をAIに渡して構造化させる形が現実的だ。