広報の想定問答をAIで作る方法
この記事の要点
記者会見やメディア取材前の想定問答を、AIを使って短時間で体系的に作る手順を解説。プロンプト例と広報固有の注意点も紹介。
結論
広報の想定問答は、AIを使うと「質問の網羅」と「初稿の速さ」の両方が改善する。記者会見1回分の想定問答を1人で数時間かけて作っていた作業が、AIの初稿生成と人間によるレビューを組み合わせることで、実質的な作業時間を30〜40分程度に短縮できる。重要なのは、AIに質問を「漏らさず列挙させる」役割を任せ、回答内容の妥当性は必ず人間が判断することだ。
想定問答にAIを使うと何が変わるか
従来の想定問答作成は、過去の取材経験や広報担当者の感覚に依存する部分が大きかった。担当者が変わると品質がブレ、新人が担当するプロジェクトでは想定が手薄になりやすい。
AIを使うと、この属人性が下がる。ツールは感情も経験もないが、「この発表に対して記者が持ちうる疑問点の一覧」を構造的に出力するのは得意だ。広報担当が「自分では思いつかなかった視点」に気づくきっかけになる。
特に効果が大きいのは次の3点だ。
- 法的リスク・不祥事対応など「考えたくない質問」を洗い出す作業
- 英語・中国語など第二言語での取材向けQ&A作成
- 同種の発表を過去に経験していない担当者が初めてメディア対応する場面
使うAIツール
テキスト生成に特化したチャット型AIが向いている。現時点で広く使われているのはChatGPT(GPT-4o)とClaude 3.5 Sonnet以降のモデルだ。どちらも無料プランで試せるが、長い文書を扱う場合や繰り返し使う場合は有料プランの方が安定する。最新の料金・仕様は各社公式サイトで確認してほしい。
社外秘の情報をプロンプトに含める場合は、入力データの学習オプトアウト設定と社内のAI利用ポリシーを先に確認すること。設定方法はツールごとに異なる。
手順:ステップ別解説
ステップ1:発表内容の要点をまとめる
AIに投げる前に、発表内容を200〜400字程度でまとめる。プレスリリースの下書きや社内の報告書がすでにあれば、そこから引用してよい。
この要点メモには次の要素を含めると精度が上がる。
- 発表内容(製品・施策・人事・業績など)
- 発表のタイミングと背景
- 想定される読者・視聴者(報道媒体か、専門誌か、SNSか)
- 特に気にしている論点や過去の炎上リスク
ステップ2:質問リストを生成させる
あなたは経済誌の記者です。
以下の発表内容について、取材で聞くべき質問を網羅的に作成してください。
[発表内容]
(ステップ1で作成した要点をここに貼る)
条件:
- 事実確認の質問(数字・日付・人物名の確認)
- 背景・意図を問う質問(なぜ今か、誰が決めたか)
- リスク・懸念を問う質問(競合との比較、負の影響)
- 批判的立場からの質問(過去の失敗、矛盾点)
- フォローアップの質問(今後の見通し)
これらの観点をそれぞれ3〜5問ずつ作成し、番号付きで出力してください。
このプロンプトで30〜50問の質問候補が出る。全部は使わない。次のステップで絞り込む。
ステップ3:回答の初稿を作らせる
絞り込んだ質問に対して、回答の初稿を生成させる。
以下の質問に対して、広報担当者としての回答初稿を作成してください。
[会社・製品の基本情報]
(社名、事業内容、今回の発表に関係する背景情報)
[質問リスト]
1. (質問1)
2. (質問2)
...
条件:
- 回答は事実を基にする。不明な点は「確認が必要です」と記載する
- 回答は150字以内で簡潔にまとめる
- 感情的な言葉は使わない
- 「コメントを控える」が適切な場合はそう記載する
ここで出てくる回答はあくまで初稿だ。事実確認と会社としてのスタンス調整は必ず人間が行う。
ステップ4:批判的・攻撃的な質問を追加する
通常の質問リスト生成では、AIは中立的な問いを多く出す傾向がある。厳しい取材環境を想定するなら、批判寄りの質問を別途追加する。
今回の発表に対して、批判的な立場の記者が取材で最も突いてくる質問を10問作成してください。
想定する記者のスタンス:競合や業界の不満を代弁し、発表内容の矛盾・リスク・過去の失敗を追及する立場。
発表内容:(要点をここに貼る)
実際に使った広報担当者からは「自分では気が引けて書けなかった質問が出てきた」という声がある。この質問への対応を事前に練ることが、本番での動揺を減らす。
ステップ5:人間がレビューし、確定版を作る
AIが生成した質問と回答を、次の観点で見直す。
- 回答の事実関係に誤りがないか(数字・日付・固有名詞)
- 会社としての公式スタンスと一致しているか
- 法務や経営層が「この答え方でよいか」を確認すべき項目はないか
- 「答えない」判断が必要な質問の識別
最終的な想定問答は必ずWord・Googleドキュメントなどに書き出し、関係者に確認を取ってから使う。AIのチャット画面を本番で開く運用は避けたほうがよい。
広報固有の具体例
例1:新製品発表の記者会見前準備
ある消費財メーカーの広報担当者は、新製品の記者会見2日前にAIで想定問答を作成した。プロンプトには競合製品との価格差、製造工場の所在地、環境負荷の削減数値を含めた。AIが生成した質問の中に「なぜ他社より50円高いのか」という問いがあり、担当者が価格設定の根拠を改めてマーケティング部門に確認するきっかけになった。会見当日、記者から同様の質問が出たが、準備があったため30秒で答えられた。
例2:社員の不祥事報道後の追加取材対応
報道直後のタイミングで、広報担当者が「報道後に想定される追加質問」をAIで洗い出した。入力情報は報道内容の要約と、会社として公表済みの対応内容のみ。AIは「再発防止策の具体的な内容」「他部署への影響」「役員の処分有無」など、当初の広報担当者が後回しにしていた質問を複数出力した。この作業により、翌日のメディア対応で答えられない質問がゼロになった。
うまくいかない場合のポイント
質問が浅い・予定調和になる
プロンプトに「批判的立場」「最悪のシナリオ」などの制約を明示しないと、AIは当たり障りのない質問を出す。観点を細かく指定するほど精度が上がる。
回答が長すぎて使えない
「150字以内で」「1文で」「結論だけ」といった文字数・形式の制限をプロンプトに含める。制限がないと長文の回答が出やすい。
AIが会社特有の事情を知らない
AIは公知情報しか学習していない。自社のポジション・過去の失敗・業界特有の慣習はプロンプトに直接書いて渡す必要がある。書き方は「補足情報」として箇条書きで渡すと処理しやすい。
出てくる回答に事実誤認がある
AIは確信がない内容でも自信ありげに書く。特に数字・人名・法律の引用は必ず一次情報で確認する。「公式資料に明記されていない内容は『確認が必要』と記載してください」とプロンプトに入れると、不確かな記述を抑制できる。
関連記事
想定問答の準備と並行して、広報のメディア対応をAIで準備する方法も読んでおくと、取材対応全体の流れが整理できる。プレスリリースの原稿自体の作り方は広報のプレスリリースをAIで書く方法で解説している。社内向けの報告文書については広報の社内メモをAIで素早く作る方法を参照してほしい。
よくある質問
想定問答をAIで作ると質が下がりませんか?
AIは抜け漏れの防止と初稿の速さに使い、回答内容の事実確認と会社スタンスの整合は必ず人間が行う。この役割分担を守れば、むしろ品質が安定する。
どのAIツールが想定問答に向いていますか?
ChatGPT(GPT-4o)やClaude 3.5 Sonnet以降のモデルであれば実用水準に達している。社外秘情報を入力する場合は各ツールの利用規約と社内ポリシーを事前に確認すること。
AIが作った想定問答はそのまま使えますか?
そのまま使えない。AIは公知情報から質問パターンを推測するため、自社固有の事情や経営の意図は反映されない。必ず広報担当・法務・関連部門が内容を精査してから使う。
敵意のある質問までAIで作れますか?
作れる。プロンプトに「批判的な立場の記者として、最も厳しい質問を10問作成してほしい」と明示すると、攻撃的な問いも生成される。ただしAIは感情的な圧力や文脈的な突っ込みを完全に再現できないため、過去の取材経験も組み合わせて使う。