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AI国際枠組みが二極化、日本はPax Silica側

AI国際枠組みが二極化、日本はPax Silica側

この記事の要点

中国主導のWAICOに29カ国、米国主導のPax Silicaに30カ国超が参加し、AIの国際枠組みが二つに分かれた。日本はPax Silica側にあり、海外展開する企業は要件の分岐に備える必要がある。

結論

AIの国際的な枠組みが、2026年7月時点で二つに分かれた。中国主導の世界人工知能協力機構には29カ国が署名し、米国主導のPax Silicaには日本を含む30カ国以上が名を連ねる。どちらか一方の基準に合わせれば世界中で通用するという前提は成り立たなくなった。海外に顧客や拠点を持つ企業は、AIサービスの提供条件が国ごとに分岐する前提で計画を組み直す必要がある。

二つの枠組みの中身

Pax Silicaは、米国のトランプ政権が2025年12月に立ち上げた。国務省のAIおよびサプライチェーン安全保障に関する旗艦的な取り組みという位置づけである。2026年6月25日と26日にワシントンで開かれた首脳会合では、アルゼンチン、チリ、コスタリカ、エルサルバドル、欧州連合、ドイツ、ギリシャ、カザフスタン、オランダ、パナマの10者が宣言に署名し、参加者は24に達した。

Pax Silicaが掲げるAI機会声明には、日本を含む35カ国が名を連ねている。オーストラリア、インド、イスラエル、イタリア、韓国、シンガポール、英国などが含まれる。参加国は、ソフトウェアの応用と基盤、フロンティアの基盤モデル、情報の接続とネットワーク基盤、計算資源と半導体、先端製造、輸送物流、鉱物の精錬と加工、エネルギー供給の各領域で、サプライチェーンの機会と脆弱性について協調することが期待されている。

一方のWAICOは、2026年7月16日に29カ国が設立協定に署名した。本部は上海に置かれ、国連憲章の原則に導かれる独立した政府間国際機関とされる。創設メンバーにはインドネシア、ブラジル、マレーシア、南アフリカ、セネガル、ロシア、パキスタンなど、グローバルサウスの主要国が並ぶ。

両者を並べると次のようになる。

項目Pax SilicaWAICO
主導米国中国
発足2025年12月2026年7月
参加国数声明署名35カ国創設29カ国
日本の参加ありなし
主眼サプライチェーンの確保国際協力と統治
特徴価値観を共有する国での協調オープンソースの共有を掲げる

なお、両枠組みの参加国数は集計の基準によって異なる数字が報じられている。宣言の署名者数と、個別の声明への署名国数が別に数えられているためである。最新の参加状況は各枠組みの公式発表で確認してほしい。

重なりと空白

注意すべきは、この二つが単純な対立構図ではない点である。カザフスタンはPax Silicaの宣言に署名した一方で、WAICOの創設メンバーにも名を連ねている。両方に足を置く国が存在する。

さらに、どちらにも属していない国が世界の大多数を占める。国連加盟国は193カ国であり、二つの枠組みの参加国を足しても3分の1に届かない。残る国々では、AIに関する国際的な取り決めが存在しない状態が続く。

EUは独自の路線を進んでいる。クラウド・AI開発法が7月に官報公布されたほか、AI法の高リスクシステムに関する規定は2026年8月2日から適用が始まる。Pax Silicaには署名しつつ、自前の法規制で域内を固める形である。

日本国内では、第2期AI基本計画の案が7月に決定された。罰則を伴わない枠組みを採る日本のAI法は、EUの規制型とも中国の枠組みとも異なる。

現場の実務にどう効くか

海外展開している企業のAI推進担当者が、今週やるべきことは1つに絞れる。自社がAIを使ったサービスを提供している国を一覧にし、それぞれがどの枠組みに属するかを書き込むことである。表計算ソフトで30分もあれば作れる。

この一覧があると、次の3つの判断が速くなる。第一に、規制が動いたときに影響を受ける製品と機能を特定できる。第二に、新規の市場に進出する際、AI機能の追加開発が必要かどうかを事前に見積もれる。第三に、法務部門に「どの国の動向を優先して追うか」を具体的に依頼できる。

とくに東南アジアと中南米に事業を持つ企業は、この作業の優先度が高い。インドネシア、ブラジル、マレーシアはWAICOの創設メンバーであり、いずれも人口規模が大きく、日本企業の進出先としても存在感がある。これらの国で将来求められるAI関連の要件が、日本や米国のそれと食い違う可能性がある。

一方で、過度に構える必要もない。WAICOは設立が決まった段階で、加盟国に生じる具体的な義務はまだ公表されていない。Pax Silicaも、サプライチェーンの協調という枠組みであって、個別企業に直接の義務を課すものではない。いま必要なのは対応ではなく、監視の体制を作ることである。

社内で報告する際は、「規制が固まった」ではなく「枠組みが複数に分かれ、収れんする見通しが立っていない」と伝えるのが正確である。ひとつの国際基準にそろえれば済むという前提で長期の投資計画を組んでいるなら、その前提を見直す時期にきている。

出典

よくある質問

Pax Silicaとは何ですか。

米国が2025年12月に立ち上げた国際的な枠組みで、半導体、AI、レアアースといった先端技術のサプライチェーンを、参加国で協調して確保することを目的としています。日本は参加国に含まれます。2026年6月の首脳会合でEUやドイツなど10の参加者が加わりました。

日本企業は何をすればよいですか。

まず自社がAIサービスを提供している国が、どちらの枠組みに属しているかを一覧にしてください。そのうえで、AI生成物の表示義務やデータの越境移転制限が国ごとに分かれる前提で、法務部門と製品計画の担当者が定点で動向を追う体制を作ることを勧めます。