人事の情報リサーチをAIで効率化する方法
この記事の要点
競合他社の採用動向・給与水準・最新の人事制度トレンドなど、人事担当者が日常的に行うリサーチ業務をAIで短縮する具体的な手順とプロンプトを解説する。
結論:リサーチ時間の半分以上は「集める」作業。AIはここを短縮できる
人事担当者が給与水準の市場調査をするとき、複数の求人サイト・業界調査レポート・厚生労働省の賃金構造基本統計調査を組み合わせて読み込む作業だけで1〜2時間かかる。競合他社の採用状況を確認しようとすれば、各社の採用ページを回ることになる。
AIを使うと、「集めた情報を整理・比較する」工程を数分に短縮できる。また、Web検索機能付きのAIであれば情報収集そのものも補助できる。ただし、AIの知識には時点の制限があるため、最終的な確認は公式情報源で行う必要がある。
使うAIツールと使い分け
リサーチ業務には2種類のAIを使い分ける。
整理・分析に使うチャット型AI
- Claude:集めた情報の構造化・比較・要約に優れる
- ChatGPT:質問への回答と情報の整理全般に対応
リアルタイム検索が必要な場合
- Perplexity:Web検索と要約を組み合わせた出力が得意で、情報源のURLも示す
- ChatGPT:Search機能でWeb検索連携に対応し、最新情報を参照できる
- Gemini:Google検索と統合した回答ができる
最新の法改正動向や市場データを調べるなら検索機能付きを使い、自分で集めた複数の資料を整理・比較するならチャット型AIが適している。
手順:リサーチを効率化する流れ
ステップ1:リサーチの目的と使い道を決める
「給与水準の市場調査」と言っても、新卒採用の初任給を決めるためか、中途採用で職種別に相場を把握するためかで調べるべき情報が違う。AIに投げる前に「何を決めるためのリサーチか」を1文で整理する。
目的が曖昧だと、AIは一般的な情報を広く返すだけになる。「エンジニア職(5年以上、東京勤務)の年収相場を調べて、当社の中途採用オファーの妥当性を検討したい」のように具体化する。
ステップ2:情報源を選んで収集する
AIは情報収集の補助はできるが、専門的な人事データは以下の公式情報源が信頼できる。
- 賃金水準:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」「毎月勤労統計調査」
- 採用動向:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率」「中途採用動向調査」
- 人事制度トレンド:日本経済団体連合会「人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」
- 業界別賃金:各業界団体の賃金調査、OpenWork・Glassdoor等の口コミデータ
Web検索機能付きAIを使う場合は「厚生労働省の最新の賃金構造基本統計調査によると、IT職種の平均年収は」のように情報源を指定して聞くと、根拠のある情報が出やすい。
ステップ3:集めた情報をAIで整理・構造化する
公式レポートや複数の記事・データを手元に集めたら、AIで整理する。以下はそのままコピペして使えるプロンプト例だ。
以下の資料から、当社の[エンジニア採用(バックエンド、経験5年以上)]における
市場賃金水準の検討材料を整理してください。
出力形式:
1. 職種・経験年数別の年収レンジ(資料に記載があれば)
2. 地域(東京・大阪・その他)による差(記載があれば)
3. 当社の現在のオファーレンジと市場の比較(私が別途指定した場合)
4. 不足している情報・確認が必要な点
資料:
[ここに調査した資料の内容を貼り付ける]
注意:資料に記載のない数値を推測で補わないでください。
この「推測で補わないでください」という一文は重要だ。AIは空白を埋めようとしてもっともらしい数値を生成することがある。事実ベースのリサーチでは明示的に禁止する。
ステップ4:比較表や整理資料を作る
AIで構造化した情報を、経営層への報告や採用方針の決定に使える形に整える。
上記の市場調査結果をもとに、採用会議で使える比較表を作成してください。
行:職種(バックエンド、フロントエンド、インフラ)
列:市場中央値年収、当社現行オファーレンジ、差分(当社が市場より高い/低い/同等)
表の下に、採用競合力の観点から見た簡単なコメントを3点つけてください。
コメントは事実と数字に基づき、推測や一般論を避けてください。
人事業務での具体的な使い場面
場面1:新卒採用の競合他社動向調査
就職情報サイトやプレスリリースを定期的に確認して競合他社の採用情報をまとめる作業は、採用シーズンに毎週発生する。各社の採用ページを見て回るだけで1〜2時間かかることがある。
以下の手順で時間を短縮できる。
- Perplexityで「[競合A社] 2026年 新卒採用 変更点 求人票」のように検索して概況を把握する
- 各社の採用サイト・プレスリリースから必要な情報を手動で収集する
- 収集した情報をClaudeに貼り付けて「採用条件・募集職種・採用人数・特徴的な施策を会社別に整理してください」と依頼する
手順3のAI処理は5分以内で終わる。情報収集とAIによる整理を分けることで、調査の信頼性を保ちながら時間を短縮できる。
場面2:人事制度改定の際の他社事例収集
フレックスタイム制の拡充や副業解禁の検討をするとき、他社がどのような制度設計をしているかを把握したい場面がある。
フレックスタイム制のコアタイム廃止(フルフレックス)を検討している企業の
人事担当者として、他社事例を調査したい。
以下について、公表されている情報の範囲でまとめてください。
1. フルフレックス制を導入している企業の特徴(業種・規模など)
2. 制度設計の主なパターン(精算期間、みなし残業の有無など)
3. 導入企業が公表している効果・課題
4. 導入時に検討すべきリスクや労務上の留意点
情報の出典や根拠が不明な場合は、その旨を明記してください。
Perplexityで同様の質問をすると、参照した記事やレポートのURLが一覧で示されるため、確認・引用がしやすい。
求人票の作成や採用要件の言語化については人事の求人票作成をAIで効率化する方法を参照してほしい。
うまくいかない場合のポイント
AIが古い情報を返す
AIの知識には学習時点の上限があり、最新の統計や法改正は反映されていないことがある。時事性の高いデータは「最新の情報は公式サイトで確認してください」とAI自身が言うこともある。法令・統計は必ず公式情報源で照合する。
出典が不明な数値が出てくる
プロンプトに「数値を提示する場合は、出典または根拠を必ず明示してください。根拠がない場合は数値を記載しないでください」と追記する。出典のない数値はそのまま使わず、自分で確認する。
調べたい範囲が広すぎる
「人事制度のトレンドを調べて」のように範囲が広いと、AIは一般論を返す。「2026年の中小企業における育児休業取得率向上策として最近注目されている制度設計」のように、対象・時点・課題を絞って質問する。
競合他社の情報が得られない
非公開の内部情報はどんなAIでも取得できない。競合情報は、採用面接での候補者インタビュー・転職エージェントとの情報交換・公開採用サイトの定期モニタリングなど人的な情報源と組み合わせる。
リサーチ用途別・ツールと方針の整理
| リサーチ内容 | 推奨ツール | 注意点 |
|---|---|---|
| 賃金・給与相場 | Perplexity+公式統計 | 統計の発行年度を確認する |
| 法改正・通達 | 厚生労働省公式サイト+AI整理 | AIの要約は原文で確認 |
| 他社採用動向 | 採用サイト手動確認+AI整理 | 非公開情報は取得不可 |
| 人事制度トレンド | Perplexity+Claude | 情報源と発行時点を記録 |
| 採用媒体の評判 | OpenWork・Glassdoor+AI整理 | サンプルバイアスに注意 |
リサーチで集めたデータを評価制度や研修設計に活かす方法については人事のデータ集計・分析をAIで行う手順も参照してほしい。
リサーチ結果の活用まで視野に入れる
AIで整理したリサーチ結果は、会議資料・経営報告書・採用計画書に組み込む前に、数値と出典を必ず確認する。AIが提示した情報の信頼性チェックは人間の作業だ。
ただし、「どの情報が必要か」「どう整理するか」「何と比較するか」という思考の設計にAIを使うことで、調査設計の質そのものが上がることがある。ゼロから調べるより、AIにたたき台を作ってもらってから深掘りする方が効率的だ。
議事録の要約や会議記録の整理については人事の議事録作成をAIで効率化する方法も確認してほしい。
リサーチで使えるプロンプトの追加パターン
法令・通達の改正点チェック
以下の法令改正について、中小企業(従業員100名未満)の人事担当者として
対応が必要な事項を整理してください。
対象:[育児・介護休業法の2025年改正]
整理してほしい内容:
1. 新設・変更された義務(対応期限付き)
2. 新設・変更された努力義務
3. 過去の対応と今回の変更点の違い
4. 対応していない場合のリスク(罰則・行政指導など)
注意:不確かな内容は「最新は厚生労働省公式情報で確認してください」と明記してください。
採用媒体の選定比較
採用担当者が年度初めに採用媒体の見直しをするとき、候補媒体を比較整理するプロンプト。
以下の3つの採用媒体を比較整理してください。
媒体1:[リクナビNEXT]
媒体2:[マイナビ転職]
媒体3:[Green]
比較軸:
1. 主な利用者層(年齢・職種・転職経験)
2. 掲載費用の概要(スカウト/求人広告の種類と価格帯)
3. 得意な業種・職種
4. 採用企業の使い分けパターン(どんな企業がどの用途で使うか)
公表されている情報と一般的に言われている特徴に基づいて整理してください。
最新の料金は各媒体の公式サイトで確認することを前提にしてください。
情報の質を担保するための確認手順
AIが提供する情報には、学習データの時点での情報が含まれる。特に以下の情報は鮮度の確認が必要だ。
| 情報の種類 | 確認先 | 確認の頻度 |
|---|---|---|
| 法令・通達 | 厚生労働省・e-Gov法令検索 | 利用するたびに |
| 採用媒体の料金 | 各媒体の営業・公式サイト | 年1〜2回 |
| 市場賃金データ | 賃金構造基本統計調査(年次) | 調査発行時 |
| 他社制度事例 | 各社のIR・採用サイト | 参照時 |
AIが出した情報を報告書や稟議書に使う場合は、出典と確認日を必ず記録する。「AIが言っていた」ではなく「厚生労働省○○年版調査によると」のように情報源を明示する。
リサーチ作業の時間配分を変える
AIを使ったリサーチが機能すると、作業時間の配分が変わる。
従来は「情報収集70%、整理・分析30%」だったとすると、AIを使うと「情報収集40%、整理・分析40%、判断・活用20%」という形にシフトできる。収集と整理の工数が下がり、「この情報から何が言えるか」「自社にどう当てはめるか」という判断の時間が増える。
人事担当者が本来価値を発揮すべき領域は、情報を集めることではなく、集めた情報をもとに自社の状況に合わせた判断を下すことだ。AIはその判断を支える情報整理の道具として使う。
リサーチ結果をデータとして蓄積・分析する方法については人事のデータ集計・分析をAIで行う手順も参照してほしい。
よくある質問
AIのリサーチ結果はそのまま使えますか?
AIが生成した情報は、学習データの時点で最新ではない可能性がある。給与水準や法改正情報など時事性の高いデータは、AIの出力を出発点にしながら、厚生労働省や業界団体の公式情報で確認する必要がある。
競合他社の採用情報をAIでリサーチする際の注意点は何ですか?
公開されている採用サイトやプレスリリースの情報は調べられるが、非公開の内部情報はAIでも取得できない。AIは情報の構造化・比較整理を得意とするため、自分で集めた情報をAIに整理させる使い方が実用的だ。
Web検索機能があるAIと通常のAIの違いは何ですか?
通常のAIは学習済みの知識から回答するが、Web検索機能付きのAIはリアルタイムでWebページを参照する。PerplexityやChatGPTのSearch機能などが代表例だ。最新の求人動向や法改正情報を調べるなら検索機能付きを使うべきだ。
人事制度のトレンド調査にAIを使うと何が変わりますか?
人事制度に関する白書・報告書・ニュースを集めて読み込む作業が、AIによる要約・分類で大幅に短縮できる。1〜2時間かかっていた概況把握が30分以内に終わるケースが多い。