法務の提案書をAIでつくる進め方
この記事の要点
法務担当者がAIを使って規程整備案・ガバナンス提案・法的対応策の提案書を作る手順を解説。構成設計からプロンプト例まで法務固有の活用方法を紹介します。
結論
法務担当者が作る提案書は、社内規程の整備案・コンプライアンス施策の提案・契約管理体制の改善案など、会社の法的リスク管理に直結するものです。AIを使えば、提案書の構成設計から各セクションの初稿作成まで、文章を組み立てる作業を大幅に短縮できます。
ただしAIが提示する法的根拠や規程内容は、現行法令と照合してから使う必要があります。AIは文書作成の効率化ツールであり、法的判断を代替するものではありません。
使うAIツール
法務提案書の作成に向いているツールは以下のとおりです。
| ツール | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| Claude(claude.ai) | 長文の構造維持・複数条件の同時処理が安定 | 複数のセクションを持つ提案書の初稿 |
| ChatGPT(GPT-4o) | 表・リスト形式の整形が得意 | リスク比較表・実施スケジュールの作成 |
| Microsoft Copilot(Word統合) | Word文書を直接生成・編集できる | Word形式の提案書を直接作成する場合 |
| Notion AI | Notionページに統合されている | Notionで提案書を管理している場合 |
長文の提案書は一度に全部を生成させるより、セクションごとに分けて作成する方が精度が上がります。
手順:法務提案書をAIで作成する
ステップ1 提案書の目的・対象読者・結論を先に決める
AIに依頼する前に、次の3点を固めます。
- この提案書で何を決めてもらいたいか(承認・予算確保・体制変更など)
- 読み手は誰か(経営層・取締役会・関係部門長)
- 結論として何を提案するか(規程の新設・改訂・外部専門家の活用など)
この3点が曖昧なままAIに依頼すると、一般論の羅列になりやすいです。特に「なぜ今この提案が必要か」という問題意識を明確にしておくことが重要です。
ステップ2 構成案をAIに作らせる
まず提案書の構成案を作るよう依頼します。
以下の条件で、経営会議に提出する法務提案書の構成案を作成してください。
【提案テーマ】
契約書管理体制の整備(現在、各部門が個別に契約書を管理しており、法務部による集中管理体制がない)
【目的】
法務部による契約書の一元管理体制を構築することを経営会議で承認してもらう
【読み手】
取締役・事業部長(法律の専門家ではない)
【現状の問題点(既に把握しているもの)】
- 契約書の保管場所が部門ごとにバラバラで、必要なときにすぐ見つからない
- 契約書の期限管理(更新・解除通知)が各部門任せのため、期限切れが発生したことがある
- 法務部が契約内容を把握していないため、紛争発生時に対応が遅れるリスクがある
【希望する提案書の構成】
A4で3〜5ページ程度にまとまる構成にすること
ステップ3 各セクションの初稿を作成する
構成案を確認したうえで、セクションごとに初稿を作成します。
以下の提案書の「現状の課題」セクションの文章を作成してください。
【セクション名】現状の課題
【前提】
- 提案書全体のテーマ:契約書管理体制の整備
- 読み手:取締役・事業部長(法律の専門家ではない)
【含める内容】
- 現在の分散管理による3つの問題点(保管場所の分散・期限管理の属人化・法務部の情報把握不足)
- 各問題点がどのようなリスクにつながるか(具体的な影響を含める)
- 法的リスクの説明は専門用語を避け、経営視点で書くこと
【文体・分量】
- 見出し・箇条書き・本文を組み合わせること
- このセクション全体で400〜500字程度
セクションを一つずつ作ることで、各部分の内容をしっかり確認できます。
ステップ4 全体を通して確認・修正する
各セクションの初稿が揃ったら、次の点を確認します。
- 法的根拠として引用した内容が現行法令と一致しているか確認する
- 提案内容が自社の実情と合っているか確認する
- 数値・コスト見積もりが実態と合っているか確認する
- 経営層が読む文書として言葉が適切かどうか確認する
法務固有の活用例
活用例1:個人情報保護方針の改訂提案書
個人情報保護法の改正対応など、法令改正に伴う社内規程の改訂が必要なとき、その必要性を説明する提案書の骨格をAIで作れます。
以下の条件で、取締役会に提出する個人情報保護方針改訂の提案書の初稿を作成してください。
【背景】
個人情報保護法の改正により、当社の現行プライバシーポリシーに記載が不足している項目が発生しています。改訂が法令対応として必要です。
【提案の概要】
1. 現行プライバシーポリシーの改訂(不足記載事項の追加)
2. 改訂後のポリシーをウェブサイトに公開
3. 社内での従業員への周知
【含める要素】
- 改訂の必要性(法令対応であることの説明)
- 改訂のスコープ(何を変えるか)
- 改訂のスケジュール案
- 対応しない場合のリスク
【文体】
- 経営層向け。法律の専門用語を使う場合は補足を入れる
- 全体で2〜3ページ(A4)に収まる構成にすること
なお、法令の具体的な改正内容は担当者が確認・補記するため、「(改正内容:担当者確認)」のように空欄表示にしてください。
法令の具体的な内容はAIが誤ることがあります。「空欄として残す」指示を入れることで、確認漏れを防ぐことができます。
活用例2:契約審査フローの整備提案書
契約書の審査体制がない、または形式的になっている場合に、法務部主導で審査フローを整備するための提案書の草稿を作れます。
以下の条件で、社内向けに提出する契約審査フロー整備の提案書の構成と各セクションの初稿を作成してください。
【提案内容】
現在は契約書の法務審査が必要なケースと不要なケースの基準がないため、軽微な業務委託でも法務部に相談が来る一方、重要な契約でも法務を通さずに締結されるケースがある。
金額・種別・新規取引かどうかの基準を設け、審査要否の判断フローを整備する。
【提案書の読み手】
全社員(特に営業・購買・人事の担当者)
【含める要素】
- 現状の問題点(審査基準がないことで生じている混乱)
- 提案する審査フローの概要(フロー図の代わりに箇条書きで表現)
- 適用開始のスケジュール
- 各部門の役割変更点
【文体・分量】
- 平易な表現で全社員が読める内容にする
- A4で2〜3ページ程度
このような社内向け提案書は、法律の専門性より「読み手が行動を変えてくれるかどうか」が重要です。AIに「全社員が読める内容」と明示することで、平易な文章が出てきます。
うまくいかない場合の対処
問題1:法的根拠が古い・不正確
AIが提案書の中で古い法律解釈や廃止された条文を使うことがあります。
対処:法令の条文番号・最新の改正内容はAIに任せず、「(担当者確認)」として空欄にするようプロンプトで指示します。法的根拠の部分は担当者が最新の条文で確認してから追記します。
問題2:会社固有の状況と合わない内容になる
AIが一般的な企業を想定した内容を出してくるため、自社の規模・業種・体制と合わない提案になることがあります。
対処:プロンプトに自社の特徴(「従業員300名の製造業」「法務部員は2名」など)を明記します。具体的な制約条件を入れるほど、現実的な内容に近づきます。
問題3:提案書が長すぎて読まれない
AIは詳細な内容を出す傾向があり、経営層向けの提案書としては長くなりすぎることがあります。
対処:「エグゼクティブサマリーを1ページで作成してください」と別途依頼します。経営層向けには結論と要点の1〜2ページ版、実務担当者向けには詳細版と2段構えで作るのが実用的です。
問題4:数値・コストの見積もりが実態と乖離している
AIが提案書の中でコストや工数の試算を出すことがありますが、実態と大きく違う場合があります。
対処:コスト・工数の数字はプロンプトに自分で入力するか、AIの出力の数字部分を「(担当者試算)」として空欄にするよう指示します。
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法務の他の業務でのAI活用については以下の記事も参考にしてください。
よくある質問
法務の提案書作成にAIを使う場合、どの部分をAIに任せるのが適切ですか?
構成案の作成・各セクションの文章の初稿・表やリストの整形はAIに任せやすいです。一方、法的根拠の選定・リスク評価の結論・会社固有の状況への当てはめは、法務担当者が判断する部分です。AIは骨格を作るツールとして使い、専門判断は担当者が行う役割分担が基本です。
規程整備の提案書にAIを使う際の注意点は何ですか?
AIが提示する規程の内容や条文の解釈は、現行法令・判例の状況と必ずしも一致しない場合があります。特に労働法・個人情報保護法など頻繁に改正される法令に関する内容は、最新の条文と照らし合わせて確認してください。
法務提案書のAI作成にどれくらいの時間短縮が期待できますか?
1つのテーマで構成案の検討から初稿完成まで、通常2〜3日かかっていた作業が、AI活用で半日〜1日程度になるケースが報告されています。ただし法的確認・上長レビューの時間は省略できません。