AI組み込みのERPで投資収益率27%増、IBM調査
この記事の要点
IBMとSAPが7月2日、AIを組み込んだERP基盤への顧客移行事例を発表した。IBMの調査ではAIをERPに組み込んだ企業の投資収益率が最大27%高いとされ、基幹システム更新の優先度を左右する数字である。
結論
IBMとSAPは2026年7月2日、小売や医薬品、製造業など複数の業種の大手企業が、SAPのクラウドERPをIBM Power Virtual Server上で採用したと発表した。あわせて公表されたIBM Institute for Business Valueの調査では、AIを基幹システムに組み込んで運用している企業の投資収益率が、組み込んでいない企業に比べて最大27%高いという結果が示された。基幹システムの更新を検討している企業にとって、投資判断の材料になる数字である。
何が起きたか
発表によれば、デンマークの小売チェーンJYSK、中南米のIT関連企業GBM、医薬品卸のDIFARE Group、製造業のPlastilene Groupなどが、SAPのクラウドERPをIBM Power Virtual Server上で稼働させる形に移行したという。対象業種は小売、ITサービス、医薬品、製造業と幅広く、オンプレミスの基幹システムをクラウドへ移行しながらAIを組み込む動きが、特定の業種に限らず広がっていることを示している。
IBMが引用した同社の調査では、AIをERPに組み込んで業務プロセスを動かしている企業は、そうでない企業に比べて投資収益率が最大27%高いという結果が出ている。基幹システムのクラウド移行そのものが、AI活用の土台づくりとして位置づけられていることがうかがえる内容である。IBMは、老朽化した基幹システムを稼働させ続けるコストと、クラウド化してAIを組み込む際の投資を比較したうえで、後者のほうが中長期的な収益性で上回るという主張を展開している。
なぜERPの現代化がAI活用の前提になるのか
企業がAIを業務に組み込もうとするとき、最大の壁になりやすいのがデータの分断である。受注や在庫、会計の情報がそれぞれ別のシステムに散らばっていると、AIに横断的な分析をさせようにも、まずデータを集めて整える作業に時間を取られてしまう。基幹システムをクラウド化し一つの基盤に統合しておくことは、AIエージェントが在庫状況や取引履歴を参照しながら判断する土台を作る意味を持つ。IBMとSAPが今回、複数業種の顧客事例を並べて発表したのは、業種を問わずこうしたデータ統合の必要性が広がっていることを示す狙いがあるとみられる。
現場の実務にどう効くか
基幹システムの更新は、多くの企業にとって数年に一度の大きな投資判断になる。今回のような数字は、更新のタイミングでAI活用をどこまで組み込むかを経営層に説明する際の材料として使える。AI推進の予算の取り方と経営層への説明方法で挙げたように、投資対効果を具体的な数字で示せるかどうかが、稟議を通す上での分かれ目になる。今回のIBMの調査結果のような外部データを引用しつつ、自社の状況に当てはめた試算を添えると説得力が増す。
経理やバックオフィスの現場では、ERPにAIが組み込まれることで、仕訳の自動化や異常検知、レポート作成の効率化といった具体的な変化が期待できる。発注から入金までの一連の流れをAIが横断的に監視できるようになれば、これまで月次決算のタイミングでしか気づけなかった異常な取引を早期に検知できる可能性も出てくる。経理・バックオフィス向けAIツール比較で紹介したような個別ツールの導入と、基幹システム自体へのAI組み込みは、目的も規模も異なる取り組みだが、両方を視野に入れて優先順位をつけると投資が重複しにくくなる。
基幹システムの更新プロジェクトは、情報システム部門だけでなく経理や現場部門を巻き込む大掛かりな取り組みになる。全社AIロールアウト計画の立て方で述べた段階展開の考え方を、ERP更新のスケジュールに合わせて適用すると、AI活用の定着まで含めた計画が立てやすくなる。導入効果を継続的に測るためには、AI導入の効果をどう測るかで挙げた指標の考え方も参考になる。
日本企業の多くは基幹システムの刷新に数年単位の時間をかける傾向があり、IBMが示す27%という数字をそのまま自社に当てはめられるとは限らない。経営企画部門は、この数字を鵜呑みにするのではなく、自社の業種や規模に近い事例を探しながら、投資判断の一つの参考値として扱う姿勢が現実的である。
出典
よくある質問
ROIが27%高いというのは何と比べた数字か
IBM Institute for Business Valueの調査に基づく数字で、AIをERPに組み込んで運用している企業と、組み込んでいない企業を比較した際の投資収益率の差を指すとされる。調査の詳細な条件や算出方法は、IBMの公式レポートで確認してほしい。
中小企業にも関係がある話なのか
今回の発表自体は大企業向けの基幹システム移行事例が中心だが、AIをERPや会計システムに組み込むことで業務効率が上がるという傾向は企業規模を問わず当てはまりやすい。自社の基幹システム更新のタイミングで検討する価値がある。