ChatGPTで業務マニュアルを作る手順:抜けた操作をあぶり出す
この記事の要点
ChatGPTで業務マニュアルを作るには、頭の中の手順を口述して骨格を起こし、抜けている操作を指摘させ、読む人の習熟度に合わせて粒度を指定します。飲食店の開店作業を例に、画面操作の書き方から検証、更新の運用まで解説します。
結論
ChatGPTに業務マニュアルを作らせるとき、文章を書かせる前に片づけるのは、自分の頭の中にある手順を全部外に出す作業です。思い出した順に書き殴ったメモを渡して骨格を起こし、抜けている操作を指摘させ、読む人の習熟度に合わせて説明の細かさを指定すれば、初稿は目安として1時間ほどで手元に届きます。そのマニュアルが使えるかどうかは、初稿を別の人に手順どおり試してもらう工程で決まります。
マニュアルを渡したのに、新人の手が止まるのはなぜか
書き手が10回以上やってきた作業は、頭の中でひとまとまりになっています。「レジを立ち上げる」と1行書いたとき、書き手の中では裏口の鍵を開け、ブレーカーを上げ、端末の電源を入れ、通信がつながるのを待ち、前日の締め処理が終わっているかを確かめるところまでが含まれています。読む人の頭の中にはその5つがありません。
この抜けは、書き手が自分で読み返しても見つかりません。読み返した瞬間に、頭の中の手順が勝手に補完されるからです。ChatGPTを使う価値は、文章を速く書けることよりも、その業務を知らない読み手として手順を読み、つながらない箇所を指摘させられる点にあります。
この記事では、駅前で3店舗を運営する飲食チェーンで、入って2週間のアルバイトが1人で開店準備をできるようにするマニュアルを例にします。今は店長が口頭で教えていて、店長が休んだ日に開店が20分遅れたことがある、という状態からの出発です。
下準備:整った文章を書こうとせず、思い出した順に吐き出す
最初の材料は、箇条書きですらなくて構いません。開店作業をしながら、やったことを順に音声入力するか手元に殴り書きします。「裏口開ける、ブレーカー、エアコン、レジの電源、釣銭確認、仕込みの冷蔵庫チェック、看板出す」という程度で足ります。
この段階で気をつけるのは、迷ったことや例外を捨てないことです。「釣銭が足りなかったら金庫から出す。金庫の鍵は店長が持っている」のような、いつもは起きないが月に1回は起きる話ほど、後で効きます。整理はChatGPTに任せ、材料がそろったところで骨格を起こします。
以下は、私が飲食店の開店作業をしながら思い出した順に書き出したメモです。
順序も粒度もばらばらです。これを業務マニュアルの骨格に整理してください。
【メモ】
裏口の鍵を開ける/ブレーカーを上げる/エアコンをつける/レジ端末の電源/
釣銭を数えて合わせる/前日の締めが終わっているか確認/冷蔵庫の温度を見る/
仕込みの残りを確認する/本部からの連絡をタブレットで見る/
看板を外に出す/オープン札に変える/釣銭が足りないときは金庫から出す/
金庫の鍵は店長が持っている/雨の日は看板を出さない
【やってほしいこと】
1. 作業を時系列に並べ直す。並べ替えた理由が必要な箇所は一言添える
2. 同時に進められる作業と、順番を守らないといけない作業を分ける
3. 例外や条件つきの作業は、本文から分けて「こういうときはこうする」の形に整理する
4. 私が書いていない手順を勝手に足さない。足したいものは「確認したい点」として別に並べる
【条件】
・この時点では本文を書かず、見出しと手順の一覧だけを出す
・所要時間は私が伝えていないので書かない
最後の2つの条件が効きます。骨格の段階で本文まで書かせると、直したい箇所が長文に埋もれます。所要時間を書かせないのも同じ理由で、ChatGPTが置いた「約5分」がそのまま残ると、現場では守れない基準になります。
抜けている操作をChatGPTに指摘させる
骨格ができたら、それを持って抜けを探させます。ここが、書き手1人では絶対にできない工程です。
先ほど整理した開店作業の手順一覧を、次の人になったつもりで読んでください。
・入って2週間のアルバイト
・この店で開店作業をしたことは一度もない
・レジ端末も業務用の冷蔵庫も、触った経験がない
・店内に1人で、聞ける相手がいない
この人がこの手順書だけを見て作業したとき、手が止まる箇所を挙げてください。
【条件】
・「どこで止まるか」と「何が書かれていないから止まるか」を分けて書く
・止まる可能性の高い順に並べる。10点以内に絞る
・物の置き場所、鍵の所在、正常か異常かの判断基準、
うまくいかなかったときの連絡先の4つは、書かれているかを必ず確認する
・書かれていない内容を推測で補わず、質問の形で返す
返ってくる指摘は、たとえばこうなります。「ブレーカーを上げるとありますが、ブレーカーの場所が書かれていません」「釣銭を合わせるとありますが、いくら入っていれば正しいのかが書かれていません」「冷蔵庫の温度を見るとありますが、何度なら正常なのかが分かりません」。
どれも、店長にとっては考えるまでもない情報です。4つの観点を名指しするのは、これらが経験者の頭からいちばん抜け落ちやすいからです。とくに異常のときにどうするかは、書いていないマニュアルが多数派です。
指摘が出たら、答えられるものはその場で埋め、答えられないものは現場で確かめます。「金庫の予備鍵がどこにあるか」を誰も知らないと分かった時点で、このマニュアル作りは業務改善に変わります。
読む人の習熟度に合わせて、説明の細かさを変える
同じ手順でも、読む相手によって必要な分量が変わります。ChatGPTに粒度を指定しないと、どの読者にも中途半端な長さで返ってきます。
| 読む人 | 指示に入れる条件 | 1手順あたりの目安 |
|---|---|---|
| 入って間もないアルバイト | 1つの動作ごとに1文。物の場所と正常の基準を毎回書く | 3文から5文 |
| 経験3か月のスタッフ | 動作はまとめてよいが、判断が必要な箇所だけ詳しく書く | 1文から2文 |
| 応援で入る他店のスタッフ | この店だけのやり方と、どの店でも同じやり方を分けて示す | 2文と補足1行 |
| 店長の代行を務める社員 | 手順より、判断基準と権限の範囲を厚くする | 判断表の形 |
指定するときは、対象者を役職で説明するより、その人が何を知らないかを書くほうが正確に伝わります。
先ほどの開店作業の手順に、本文をつけてください。
【読む人】
・入って2週間のアルバイト
・レジ端末の画面を見たことがない
・「締め処理」「棚卸」といった店舗の用語を知らない
【書き方の条件】
・1つの動作につき1文。2つの動作を1文に入れない
・道具や設備が出てきたら、その回に必ず置き場所を書く
・正常か異常かを判断する箇所は、数値か見た目で分かる基準を書く。
基準を私が伝えていない場合は「要確認」と書いて空欄にする
・店舗の用語を使うときは、その場で普通の言葉に言い直す。
カッコを使った補足はしない
・1手順は5文以内に収める
【出力形式】
・手順は番号つきで並べる
・条件つきの作業は本文から外し、末尾に「こういうときはこうする」としてまとめる
用語の言い直しをカッコに頼らせない指示は、そのまま配布物の読みやすさに効きます。「締め処理、つまり前日の売上を確定させる作業」と文中で説明されたほうが、新人は読み飛ばしません。
同じ要領で文書の体裁をそろえたい場合は、ChatGPTで文章の書式を整える手順の指定方法が流用できます。
画面の操作を文章でどう書くか
マニュアルでいちばん壊れやすいのが、画面操作の記述です。画像を貼れば済むように見えて、画面は更新のたびに変わります。文章側の書き方を先に決めておくと、画像が古くなっても手順が読めます。
ChatGPTに書かせるとき、次の型を指示に入れます。
レジ端末の操作手順を文章にしてください。私が口頭で説明した内容は以下です。
【操作の内容】
電源を入れると数字を入れる画面が出る。店舗番号を入れて、次に自分の番号を入れる。
メニューが並んだ画面になるので、点検という項目を選ぶ。
釣銭の内訳を入れる画面で金種ごとに枚数を入れる。
合計が画面下に出るので、実際に数えた金額と合っていれば確定を押す。
【書き方の型】
・1文を「どこを見て」「何をして」「どうなったら次へ進むか」の順に組み立てる
・画面の名前は、実際に表示されている文字をそのまま書く。
私が伝えていない名称は「要確認」と書いて空欄にする
・ボタンや項目は、位置ではなく表示されている文字で指し示す。
「右上のボタン」のような書き方はしない
・操作の結果、画面がどう変わるかを毎回1文で書く
・画像を後から差し込む箇所には、何を写した画像が必要かを1行で指定する
位置で指すのをやめる指示が、更新の手間をいちばん減らします。「右上の青いボタン」は画面の作りが変われば全部書き直しになりますが、「点検」という表示名で指していれば、多くの場合そのまま生き残ります。画像の指定を出させるのも同じ理由で、「釣銭の内訳を入れる画面全体。金種の行が見えること」と書き残しておけば、半年後に撮り直すときも同じ構図で撮れます。
ChatGPTならではの2つの使い方
プロジェクトに店舗の前提を置いて、書き直しのたびに説明し直さない。 ChatGPTには、案件ごとに前提と資料をまとめておくプロジェクトという入れ物と、すべての会話に効くカスタム指示があります。マニュアルは1回で終わらず、閉店作業、週次の清掃、発注と続きます。店舗の規模、設備、スタッフの構成、使っている用語の表記を最初に置いておけば、2本目からは手順のメモを渡すだけで同じ書き方の原稿が出ます。
このプロジェクトは、当社の店舗マニュアルを作るためのものです。
すべての回答で以下を前提にしてください。
【店舗】
・駅前立地の飲食店。座席30席。3店舗を同じ運営で回している
・開店準備は原則1名。アルバイトが担当する日がある
・レジ端末とタブレットを各1台、業務用冷蔵庫を2台使っている
【表記のルール】
・「スタッフ」で統一する。「従業員」「クルー」は使わない
・カッコを使った補足や英語の併記をしない。用語は文中で言い直す
【守ってほしいこと】
・私が伝えていない数値、時間、場所を事実として書かない。空欄にして「要確認」と書く
・手順を勝手に足さない。足したい場合は本文と分けて提案する
プランや時期によって使える機能が異なるため、最新の仕様は公式情報で確認してください。プロジェクトが使えない環境なら、同じ前提文を会話の1通目に貼り付けても同じように働きます。
長い文書を別画面で編集する機能で、本体を育てる。 マニュアルは修正の回数が多く、会話の中に全文を出させていると、直すたびに長い出力が流れて前の版が埋もれます。長文を別画面に出して編集する機能を使えば本体が横に残り、「手順6だけ、冷蔵庫の温度の基準を入れて書き直してください」という部分的な修正がそのまま反映されます。店長に画面を見せながら直すときも、この形のほうが話が早く進みます。
本当に手順どおり動くかを、別の人に試してもらう
初稿ができた段階では、まだマニュアルではありません。検証は、その業務を知らない人に実際にやってもらう以外に方法がありません。
- 対象業務を一度もやったことがない人を1人選びます。同僚でも、他店のスタッフでも構いません。
- 印刷したマニュアルだけを渡し、口頭の補足をしないと先に宣言します。
- 書き手は横で見ていて、質問に答えません。代わりに、相手が止まった時刻と、止まった箇所だけを記録します。
- 相手が自力で進めなくなったら、そこで初めて口を出し、何が分からなかったのかを本人の言葉で書き留めます。
- 作業が終わったら、迷わなかったが不安だった箇所を聞きます。止まらなかった箇所にも穴があります。
この記録が、2回目の修正の材料になります。止まった箇所をそのままChatGPTに渡します。
作成した開店作業マニュアルを、未経験者に試してもらいました。
止まった箇所と、本人の言葉を以下に貼ります。これをもとに該当手順を書き直してください。
【止まった箇所と本人の発言】
・手順3「ブレーカーを上げる」→「どのブレーカーか分からない。10個くらいある」
・手順5「釣銭を確認する」→「合っているかどうかの基準が書いていない」
・手順8「本部の連絡を見る」→「タブレットのどこに連絡が来るのか分からなかった」
・手順11「看板を出す」→止まらなかったが「雨のとき出していいのか不安だった」
【条件】
・該当する手順だけを書き直し、他の手順は変更しない
・私がまだ答えを伝えていない箇所は「要確認」と書いて空欄で残す
・「不安だった」と言われた箇所は、判断の基準を1文足す形で直す
・直した理由を各手順の後ろに1行つける。私が確認するために使う
止まらなかったが不安だった箇所を分けて扱うのが、この指示の狙いです。不安は、次の人が止まる場所の予告になります。検証と修正を1往復するだけで、完成度は大きく変わります。同じ進め方を職種単位でまとめた総務の業務マニュアルをAIで作る手順も、検証の設計の参考になります。
更新され続ける状態をどう保つか
マニュアルが使われなくなる最大の原因は、内容が古いことです。更新を回すために決めるのは、誰が直すか、いつ見直すか、変更をどこで知るかの3つだけです。担当を個人名ではなく役職で決め、見直しを業務の予定に組み込み、設備やシステムを変えた人が手順書の担当に連絡する経路を作ります。
ChatGPTは、変更点の反映そのものよりも、変更が他の箇所に与える影響を洗い出すのに向いています。
運用中の開店作業マニュアルを貼ります。次の変更が入りました。
変更を反映した差分と、影響が及ぶ他の手順を洗い出してください。
【変更】
・レジ端末を入れ替え、点検の画面から金種ごとの入力がなくなった
・釣銭は前日の閉店時に用意する運用に変わった
・本部からの連絡が、タブレットではなくスタッフの個人端末に届くようになった
【やってほしいこと】
1. 変更に直接かかわる手順を書き直す
2. 変更の影響で意味が通らなくなる他の手順を挙げる
3. 変更によって不要になった手順を挙げる。削除の判断は私がする
4. 新しく必要になる手順があれば、提案として本文と分けて出す
5. 改訂履歴に書く1行を作る。日付は空欄にする
【マニュアル本文】
ここに現行版を貼る
3番と4番を分けるのは、削除と追加の判断を人が持つためです。ChatGPTが不要と判断した手順が、実は監査で求められている記録だったという事態は起こります。
うまくいかないときの対処
手順が急に丁寧になったり、雑になったりする。 会話が長くなると粒度の指定が薄れます。書き直しを頼むたびに「1つの動作につき1文」という条件を書き添えてください。全文を出し直させるより速く終わります。
やったことのない手順が混ざる。 一般的な飲食店の開店作業を補完してしまう場合があります。前提に「私が伝えていない手順を足さない」と書き、それでも混ざるなら、出力の直後に「この手順のうち、私が伝えていない内容を含むものを挙げてください」と聞き返すと自分で申告します。
長くなりすぎて読まれない。 1本に開店から閉店まで詰め込むと、誰も最後まで読みません。作業の単位で分け、担当者が変わる箇所で切ると自然にまとまります。
現場から「そんなやり方はしていない」と言われる。 店舗ごとにやり方が違うまま1本にまとめたときに起きます。共通の手順と店舗ごとの手順を分け、違う箇所だけを店舗別に書き足します。
人の確認を挟んでから配る
ChatGPTが出した原稿は、誰の承認も得ていない下書きです。配る前に、毎日その作業をしている人が全文を読んで順序と名称を確かめ、金銭や設備を扱う手順は責任者が権限の範囲と合っているかを見ます。個人名や取引先名が残っていないかも、この段階で外します。
他のツールで同じ作業を進める手順は、Geminiで業務マニュアルを作る手順とClaudeで業務マニュアルを作る手順にまとめています。
まとめ
今週の業務から、口頭で教えている作業を1つ選んでください。次にその作業をするとき、やったことを思い出した順にメモします。ChatGPTに骨格を起こさせ、未経験者になったつもりで抜けを指摘させ、答えられない指摘は現場で確かめます。初稿ができたら、その作業をしたことがない人に渡して黙って見守り、止まった箇所を記録します。1往復で配れる状態になります。プロジェクトに置いた前提と表記ルールは、2本目以降そのまま使い回せます。
よくある質問
ChatGPTで作った業務マニュアルは、そのまま現場に配布できますか?
配布できません。ChatGPTは実際の店舗や画面を見ていないため、手順の順序や画面の名称が実態とずれます。初稿ができたら、その業務を知らない人に手順どおり作業してもらい、止まった箇所を直してから配布してください。
説明が下手でも、ChatGPTで手順書を作れますか?
作れます。整った文章を書こうとせず、思い出した順に話し言葉で書き出したメモを渡し、順序の整理と抜けの指摘をChatGPTに頼む進め方なら、文章力は必要ありません。むしろ整えようとして省略した操作のほうが、後で問題になります。
社内システムの画面名や操作内容をChatGPTに入力してもよいですか?
自社の生成AI利用ルールに従ってください。判断がつかない場合は、システム名を「経費精算システム」のような一般名詞に置き換え、顧客名や従業員名を外せば、手順の整理には足ります。入力してよい範囲は情報システム部門に先に確認するのが確実です。